ファッションを超越した芸術の創造

2024年1月5日

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あべのハルカス美術館にて開催されている“コシノジュンコ 原点から現点”へ行ってきました。

コシノジュンコは日本を代表するファッションデザイナーであり,1960年に最年少で装苑賞を受賞したことを契機に,国内外で輝かしい活躍を続けています。彼女の作品は,色彩や形,素材や技法において,常に革新的で斬新なものであり,ファッションの枠を超えて芸術としての価値を持っています。彼女の創造の原点は,出身地である大阪·岸和田の風土や文化にあり,また,日本の伝統や美意識,そして世界各地での出会いやインスピレーションも,彼女の作品に反映されています。

本展は,彼女の創作の全貌を紹介する過去最大規模の展覧会で,衣装やデザイン画,写真パネルや映像など約200点が展示されています。会場はステージやランウェイに見立てられており,華やかな衣装をまとったマネキンが一堂に並び,まるでファッションショーの会場にいるような臨場感を味わうことができます。本展は,これらの作品を,彼女のファッションに対する探求心や創造力,そして社会に対する貢献というテーマに沿って展示しており,コシノジュンコの多彩な魅力を知ることが出来ます。

中でも特に印象的だったのは,2020年にGINZA SIXの観世能楽堂で開催されたコシノジュンコと二十六世観世宗家,観世清和氏の共演による「伝統と現代」が融合する総合芸術舞台で披露された“後シテ(主役)装束”です。この能は,鬼の姿に化けた美女たちが,紅葉の山で狩りを楽しむ貴公子を誘惑し,殺そうとするという物語です。コシノジュンコは,鬼の畏れと妖艶さを表現するために,金地に墨を走らせたような柄の特別な生地を,京都の細尾で織り上げた装束をデザインしました。

この装束は,伝統的な能装束とは異なる斬新なデザインでありながら,能の世界観に調和する傑作と言えます。この舞台は,能とファッションという異なる分野のコラボレーションによって,日本の伝統と美の新たな可能性を示した素晴らしい試みだと思います。コシノジュンコの装束は,観世清和氏の力強くも優雅な舞に華を添え,観客に深い感動を与えたことでしょう。能という古典芸能が,現代の感性と融合することで,新しい魅力を発揮することを,実際に使われた衣装を目の当たりにして実感しました。このような舞台は,日本の文化を世界に発信するためにも貴重なものだと思います。

コシノジュンコの作品は,見る者の心を揺さぶり,感動や驚きを与えてくれます。私は,この展覧会を通して,コシノジュンコの魅力に深く惹きこまれました。彼女の作品からは,生命の躍動や美の追求,そして自己表現の喜びが伝わってきます。彼女のファッションは,ただ着るだけでなく,見るだけでなく,感じるものであり,正に芸術の神髄を映し出していると言えます。

三村(晃)